建設業許可の専任技術者要件緩和
1.令和5年7月1日施行の新ルール
(1)実務経験による技術者資格要件の見直し
建設業許可を取得するためには、いくつかのハードルがあり、その中の1つとして専任技術者の要件を満たした者がいることが挙げられます。
国土交通省から「施工技術検定規則及び建設業法施工規則の一部を改正する省令」の公布が行われ、技術者制度が見直され、専任技術者の要件が緩和されました。
(2)改正のポイント
現在、実務経験により専任技術者資格の要件を満たすためには、
①大学、短大等の指定学科卒業後3年の実務経験を有する者
②高等学校の指定学科卒業後5年の実務経験を有する者
③それ以外で10年の実務経験を有する者
について一般建設業許可の営業所専任技術者要件を満たすこととされています。
改正後は、
④1級1次合格者を大学指定学科卒業者と同等とし、合格後3年の実務経験を有する者
⑤2級1次合格者を高校指定学科卒業者と同等とし、合格後5年の実務経験を有する者
が上記に加わりました。
(3)注意点
今回の要件緩和は、指定建設業(土木一式工事、建築一式工事、管工事、鋼構造物工事、舗装工事、電気工事、造園工事)と電気通信工事は除外されています。
また、試験の合格後の実務経験について認められる改正なので、例えば、実務経験3年を有する者が、1級1次検定に合格したからといって、すぐに専任技術者の要件を満たすことにならないことに注意が必要です(試験に合格後3年間の実務経験が必要になります)。
2.改正の背景と今後の展望
(1)改正の背景について
建設業においては、1999年度末の約60万業者をピークに減少し、2022年度末には約47万業者まで減少しました(国土交通省「建設業許可業者数調査の結果について」より)。
入職者についても、国土交通省の発表では、直近15年で35%の減少しており、将来にわたる中長期的な担い手の確保・育成を図ることが課題となっています。
今回の改正は、そのような建設業の担い手の人材不足という深刻な課題への対策という背景があります。
(2)今後の展望
現状において、資格取得や10年の実務経験とその証明に苦戦する建設業者が、専任技術者の要件緩和により、新規許可の取得や許可の継続も可能となるケースが出てくることが考えられます。
特に、機械器具設置工事業については、監理技術者、技術士、指定学科卒業と卒業後の実務経験3年または5年、10年の実務経験を有する者しか専任技術者になることができなかったものが、建築・電気・管工事施工管理技士が機械器具設置工事業の指定学科卒業と同等とみなされることにより、合格後3年(1級)または5年(2級)の実務経験に短縮されるため、この課題を解決できるケースも出てくると考えられます。
3.最後に
建設業は、毎日の生活に必要な住宅や店舗、電気・ガス・水道設備といった水道光熱施設、人の移動に欠かせない道路や鉄道、防災に関連する堤防やダム等々、社会生活の基盤となる諸施設の整備を担う重要な産業です。
改正の背景でも述べたように、現在、建設業においては、深刻な人手不足があり、許可要件を緩和していくことは、深刻な人手不足に一石を投じることになります。
その目的においては、今回の改正での効果は限定的であるとも考えられます。
実務経験が3年ある者が1級1次検定に合格したとしても、合格後さらに3年の実務経験を積む必要があり即効性に欠けることや、働きながら資格取得の勉強をする意欲のある従業員は、実務経験の3年や5年を待たずに、建設業許可を取得できるための資格を取得するとの声が現場にはあり、有用性が疑問視されています。
それでもなお、国土交通省が建設業界の深刻な人手不足に対策を講じていくことは、建設業の現場にとって望ましいことであり、一定の評価ができるものであると考えます。建設業の健全な発展を促進していくためにも、この改正で満足するのではなく、今回の改正を入口として、2歩3歩踏み込んだ政策に期待したいところです。
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